私が補習校の高等部を修了してからすでに二十数年が経ちます。長らく補習校とは直接の関係はほとんどありませんでしたが、2009年4月に娘が幼稚部に入学してからは再びお世話になっています。
ベイエリアに永住することになり娘が生まれてからは、彼女をそこに通わせない手はないと自分の中では勝手に決めていました。日本語を学ぶのではな く、日本語で学ぶ....それに必要な覚悟を再認識したのは幼稚部が目前に迫ってからでしたが。しかし幼稚部の面接のためにサンフランシスコに向かってい る時は一抹の不安もありましたが、「この道を通うのは二十何年...いや小学部のあるジアニーニ校へは三十年に近いか」と昔を思い出しながら、その話を娘 にしながらの楽しいドライブの時間でした。
さて、話はさかのぼりますが、私は小学校の入学が補習校でした。生まれてまもなく父がサンフランシスコへ転勤したためでした。しかし小学1年の一学 期中に父の任期が終わり日本に帰国したので、残念ながらこの時の事はあまり記憶にありません。その後、小学5年の1月に再び父の転勤でサンフランシスコに 引越しすることになり、補習校に再びお世話になることになります。中高部がマークトエイン校に移動し、その後にフーバー校に移動したのを実際に自分自身で 経験した世代です。サンノゼの小学部が開校することもリアルタイムのニュースとして聞きました。
小学5年生として二回目に渡米したときには昔のことなどすっかり忘れて、ABCの歌を歌える程度の英語しか知りませんでしたので、最初の1、2年間 は英語の家庭教師の所に毎日連れて行かれながらアメリカの生活に慣れようとする日々でした。その上に現地校の宿題と補習校の宿題をこなそうとしていた分け ですから大変な日々だったはずですが、不思議なこと補習校をやめようと思った事は記憶に残っていません。補習校は仲間たちと会える楽しい場との認識の方が 強く印象に残っているのかもしれません。実際、マンガや雑誌やその他の本の回し読みや、日本の最近の流行の情報交換などと、まじめな勉強以外のウエイトも 大きかったです。
最近はどうなのか知らないので恐縮なのですが、当時は高校入試にあわせて日本に帰国する人が多かった時代でした。早い人だと中学2年の2学期開始に 合わせて帰国して高校入試に備えたり、遅くても現地校の9年生の修了時に日本に子供だけが「単身赴任」で帰国するのがそれほど珍しくなかった記憶がありま す。しかし同時に日本の一部の高校や大学に帰国子女枠なるものが設立されつつあった時代でもあり、中学、高校になってからアメリカに来ることも増えてきた ため、同級生の「世代交代」を感じた記憶もあります。結果としては、私の1、2年上の学年からとくに高等部が一気に大きくなったことを覚えています。
そういった中でもアメリカの大学に行こうと考えていたのは少数派でした。私はどのタイミングで日本に帰るのかを考えているうちにその少数派の一人に なり、幸運にも大学・大学院をアメリカで無事に卒業する事ができました。卒業と同時にある外資系の会社の東京オフィスからの誘いがあり、2年間は東京を ベースに仕事をする日々をすごしました。3年目からは同じ会社のアメリカ側に移り、サンノゼが仕事の拠点になりますが、そこから約12年間は日本の仕事ば かりを担当し、アメリカと日本という国や人や会社の部門の間を往復しながら、平均すると年の半分程度は日本で過ごしていた事になると思います。
自分の内外でギャップを感じなかったと言えばうそになりますが、日本の仕事に比較的スムーズに順応できたと思っています。もちろん回りの方々のサ ポートがあってのことで自分だけの力で、などと過信するつもりはありません。しかし、自分の中に色々な意味での「日本」へ順応しうる土台があった面もある と思っています。それはどこから来たのか。一朝一夕とはいかない事ですし、日本語の言葉だけを理解できても無理なことだと思います。アメリカで生活するに は英語だけは足りないところがあるのと同じではないでしょうか。日本語で日本風に仲間たちと一緒に学び、成長する場として補習校は欠かせない存在でした。 補習校のおかげで私には高校で日本に帰ろうかそれとも大学で帰ろうかと言った選択肢がありました。そして就職を日本でする選択ができたのも補習校のおかげ です。日本語だけでなく日本の文化やしきたりや人間付き合いができる今日の自分があるのはサンフランシスコの補習校でしっかりした土台を築けたからだと思 います。
保護者となった今は娘の勉強を監督する立場にあるので、毎日の、毎週の積み重ねの重要性を再認識しています。自分で通った道で自分にはよかったのだ から娘にも...と思うのは単純すぎるのかもしれませんが、選択肢を増やしてやれるように努力しているこの頃です。思うところを長々と書かせていただきま した。まとまりのない文章になってしまいましたがこれが少しでも何かのご参考にでもなれば幸いです。
唐橋 良行
1981年1月 SF校小学部5年に編入
1987年3月 SF校高等部2年を修了
1992年 UC Berkeley卒業
1994年 Stanford卒業 (修士課程)
現在は一人娘が小学部SF校1年生として在学中。
2010年度のやまなみの記事をそのまま再掲載しております。